少年は、夜空を見上げていた。
ふわふわしそうな短い髪に女の子を思わせるほど細い可憐な姿をして、
小さい体はきっと幼い彼の年齢を表わせているのだろう。
しかし、その目だけは子供だと思われない勇ましさと強き意志を感じさせていた。
少年の周りには色んな種類の動物達が集まっていた。
まるで君臨する王に従うように。
その群れの真ん中にいながら、少年は荒い果たした大地に視線を向けた。
―――何もないはずの広闊な荒野に、その男は立っていた。
夜空のように漆黒の髪を持つ彼は見かけた事のない人だった。
誰だ、と問い詰めるような少年の視線に男はにっこり笑って手を挙げてみせる。
「よぅ」
「何者だ、貴様」
「……まぁ、あれだ、別の世界からのお客さん、ということにしておこう」
冗談のような返事に少年が眉を顰める。
その瞬間、彼は気が付いた―
男の握られた拳から、よく知っている緑色の光が零れていることを。
「……コアドリル。そうか、貴様も螺旋族か」
そう言いながらも警戒を緩めない少年に、彼は笑ってみせた。
「そんなに警戒しなくてもいいさ。俺はただ教えに来ただけ」
「なにを」
「お前は負ける」

彼はあっさり言い切って、笑う。
「お前が今から売る戦いは無意味なんだ。
この先に待っているのは絶対的な絶望だけだぞ?」
「……まるでアンチスパイラルのような言い方だな」
「あぁ、そんな風に聞こえた?ごめんごめん。
でも事実だから仕方ないんだぜ」
笑っている表情をして、彼の唇から吐かれるのは残酷な言葉だった。
「お前は人間を守りたいと思った。
だからお前は人間を閉じ込めて、支配し、そして殺すようになる。
そして千年の倦怠に負けて、王座から動くこともできなくなるんだ。
それこそが、お前の運命だ」
「バカな。たとえ貴様の言うとおりだとしても、それは俺が負けた後のことだ。
……じゃ、俺が勝ったらどうなるんだ?」
「はぁ? ……ふ、ハ、ハハ、アハハハハハハハハッ!」
その言葉の何が可笑しいのか、突然笑い出した男のことを。
まるで狂人だ、と少年は思った。
「ありえないだろう、そんなこと。
だって、俺が勝てなかった相手にお前が勝つなんて」
その嘲笑に満ちた物言いに、少年の表情が強張った。
「その言い方ー貴様、本当に螺旋族なのか」
「このコアドリルを、この目を見てそう言うのか?ロージェノム」
自称したこともない名前を呼ばれて、少年はまた眉を顰める。
確かに、その男の瞳には螺旋の光が宿っていた。
だが、もしあれが本物なら。
「貴様は千年の倦怠に俺が負けると言ったが、俺の目には―」
お前こそ、倦怠に負けたように見える、と少年は言った。
「そうかも知れない」
意外に彼はその言葉をあっさりと肯定した。
「気持ち悪いヤツだ。なぜわざわざ喋りに来た?」
「俺たちは同じ運命を生れついたから、それを知らせてあげるかなと思ってね。
俺も同じ目に会ったことがあってさ」
「なんだ。そんなの、気に入らない」
「いつかお前も分かる時が来る。
おっと、そろそろ帰らなきゃまずい」
「それはよかったな。早く消えてしまえ、亡者」
「言わなくてもそうするつもりだぞ?じゃさらばだな」
彼のコアドリルから光が発すると同時に彼の姿があった空間が搖れ始める。
彼は冷たく輝く月を背にしたまま、
「最後に教えてやろう。
―百万匹のサルがこの地に満ちた時、月は地獄の使者となりて、螺旋の星を滅ぼす」
この変わった言い方に嫌な予感を感じた少年が、
「どういう―」
「覚えておけ。人間を救うと思う愚かなヤツは必ず現れるぞ?
ハハハハハッ!」
なんの話だ、と少年が問う前に。
あっという間に男の姿は消えて、そこにはもう誰もいなくなった。
―まるでさっきまでのでき事が幻かのように。
「千年の倦怠、だと……?」
くだらない、とつぶやいて、少年は拳をぎゅっと握った。
その拳の中には自分が持っている力の証拠、コアドリルが光を放していた。
だが、いつでも信じていたその色は、今はその気持ち悪い男を思い出させて。
少年はそれを忘れようと頭を振って、もう一度夜空に視線を向けた。
あの不吉な男がどこの螺旋族かは知らないが。
俺は、あいつの二の舞は演じない。
そうだ。この螺旋の力があるから。信じている仲間がいるから。勝てない敵なんか俺には存在しない。
―その時の少年は、そう思っていたんだ。
そして少年が残された言葉の意味を理解するのは、遥か遠い未来のことになる。
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